ブライダルMCの 散歩de寄り道【Have a Break スピードが違う】
ブライダルMCの Have a Break
先日、人生初めての能鑑賞に行ってきました。
学生の頃から、先生の声を子守唄として聞き、ついには、クラシックコンサートも
「ぐっすり眠れたら、それだけ上質な音色だったということ!」
なんて言い訳をするような大人になった私。
そんな私にとっては超最難関部門に位置付けて良かろう、あの能です。
初心者の私が、この場を借りて「シテ」や「シテツレ」について語ろうとは露ほども思いませぬ。能や狂言の良さを知りたくば、どうか専門の方が書かれた専門のページをお読みください。
ただひとつ、素人の私が言いたい感想は、
「なんて私たちは慌ただしい時代を生きているのだろう!!」
ということです。
能舞台の五色の色鮮やかな揚幕から繋がる橋掛りは、私の足でなら3秒で渡り切ってしまえそうです。けれどそこを歩くこと1分…それが能だと言われればそれまでなのですが、なんだか身体がソワソワしてしまいました。
そんなにゆっくり歩かなくても・・・
だって、私、お湯を沸かしながらお茶碗を洗います。駅に行ったついでに、買い物も銀行も誕生日ケーキの予約も済ませます。ジーショ君だって、テレビを見ながらゲームをしています。何か一つだけをのんびりやっている時間は毎日の中でごくわずかです。
ジーショ君含め、学生がオンライン授業を視聴する際のデフォルトは2倍速だそうですね。
会社員の方々は、こっちの仕事をしているとあっちの仕事の依頼がきて、先にそっちをやり始めたのに後からかかってきた電話に中断されている…ことでしょう。
きっと卓上メモやスケジュール帳には、To Do List が箇条書きされていることでしょう。
そんな毎日に疲れているのに慣れてしまって、麻痺してしまって、誰にムチ打たれているわけでもないのに馬車馬のように走っている自分が、突然ぽっかりと異空間に入り込んでしまった…それが私の初体験「能」でした。
この20分の1のスピードを愉しむことこそが、贅沢な時間なのかもしれません。学生時代の授業のようで、気持ちの良いクラシックコンサートのようで、でも紛れもなく初めて聞く囃子方の掛け声と笛・小鼓・大鼓の音色。これも心地良い子守唄になりそうで、(それは私流には大変な誉め言葉ではあるのですが)、睡魔にしばしば襲われるも、なにしろ初めて見るものでしたので、どんなものだったかはしっかりと見届けてまいりました。
根拠のない話ではあるが、有名だという一説をジーショ君が教えてくれました。
❝ 現代人の1日に目にする情報量は、江戸時代の人の1年分にあたる ❞
という話を聞いたことがありますか?
何をもって計算されたのかはわからないし、それは物の例えとして捉えれば良い話なのだと思いますが、少なくとも今回、私は彼らの20倍の速さで歩いている!と思いました。
そんなスピードで歩いている限り、道端に咲く花は見落としてしまうでしょうし、携帯をチェックしながら乗っている車窓は、最近建った大きなビルでさえ、その変化に気づかないことでしょう。
能は私に警告したのかもしれません。
ー そんなに急いでどこへ行く?
この時間があったら、原稿を1-2本書けたな…と思った私に、
ー ゆっくり歩いても、急いで走っても、あなたの人生が豊かかどうかはスピードではないんだよ。
そう耳元で囁かれた気がした昼下がりでした。