bridalmemory~私たちの物語

ブライダルMCが作る物語風プロフィール紹介

ブライダルMCの 散歩de寄り道【主役deホスト】

        


若者よ、驚くなかれ。

その昔、結婚披露宴ではゴンドラが出現することがあった。乗っているのは新郎新婦。一般人がまるで芸能人にでもなったかのような派手な登場を楽しんだ。もちろんそんな演出を楽しめるのだから、一般人とはいえ、裕福な家庭のご子息ではあっただろう。ゴンドラは主にお色直し後の再入場で使われた。そんな奇抜な登場をするからには、ドレスアップもそれなりに”映え”なければならない。この二人の衣装替えの中座時間が、いったん家に帰れるのではないか?と思わせるほど長かった。

新郎新婦の隣りには仲人(なこうど)と呼ばれる「二人の結婚を取り持ったご夫妻」が座っていた。取り持っていなくても誰かしら座っていた。つまりゲストに向かって座るメインメンバーはなんと4人だったのだ。彼らの使命は、新郎新婦を隅から隅まで紹介すること。呼ばれたゲストは二人の長~い生い立ちを、ドリンクの一杯も許されずに、耐えて耐えて聞くのであった。

これらの盛大な披露宴を成功させるためには、大勢の来賓客が必要であり、それを収容するためにもホテルの宴会場が使われることが一般的だった。(…らしい。ちなみに私は、その時代に司会者をやっていたほどのベテランではない。)

彼らは正真正銘の「主役」であった。我が晴れの日を、家族に祝われ、ゲストにも祝われ、誰よりも自らが祝っていた。

 

それから何がどんな順に変わっていっただろう。

今は、会場につけばウェルカムドリンクが振る舞われ、時に一品目のアミューズ(前菜)が出てくることもある。新郎新婦の登場を待たずに、久しぶりに集うゲスト同士で先に楽しんでほしいという配慮だ。

仲人(のふりをしてまで新郎新婦の隣りに座らなければならない上司)はいなくなった。2回のお色直しは1回が定番となった。引き出物はゲストへの配慮から軽めが好まれるようになった。

何より、新郎新婦自身の意識が変わったのだ。ゲストには美味しい料理を食べてもらいたい。料理の評判が良いレストランを披露宴会場として使うようになった。友人への余興の依頼にも優しさが溢れている。「緊張して座っているのは可哀想」という理由から、早めにスピーチを終わらせる進行をチョイスしたり、時には負担をかけたくないからとスピーチ・余興そのものをお願いしないという選択をする新郎新婦も増えてきた。ゲスト・ファースト…居心地の良い空間を作りたいという思いが前面に現れていることが多い。ウェルカムスピーチでも、感謝を口にする。

「今日は来てくれてありがとう」

「これまでの感謝を伝える場を設けさせて頂きました」

「集まってくれたメンバーは、日頃から僕たちが大切に思う人たちです」

謝辞ではこうだ。

「今の自分があるのは皆様のおかげです」

「皆様のおかげで、こんなに幸せな気持ちになれました、ありがとう」

決して、

「見て見てお姫様みたいな私」

「みんなで私たちを祝う最高の空間を作って」

ではないのである。テーブルラウンドする二人は、「楽しんでる?」と友人に声をかける。自分たちのために時間を割いてくれたゲストが楽しめているか?それを気にするタキシードとドレスの主役は、れっきとした主役でありながら正真正銘のホストなのだ。彼らの感謝とおもてなしの精神が、これら全ての変化をもたらしたと言っても過言ではないだろう。

最近では、あえてブライダルテーブルを取り払い、ブライダルソファにサイドテーブルというスタイルも好まれている。これなら新郎新婦もすぐに移動できるし、そもそもそのスタイルを選ぶ二人は、「私たちはここに座っているから、皆さんが順番に来てください。」なんて微塵も思っていないのだ。コロナで通常の飲み会も出来なかったここ数年は特に、この披露宴こそが久しぶりに堂々と集える同窓会としても機能していた。ならば笑い声の中心はゲストテーブルであり、主役がそこにスルリと入り込む…そんな形がベストだと新郎新婦は考えたのだ。時に、周囲に溶け込みすぎた新郎を見失うことすらある。気が付くと、誰かの椅子を奪って話し込んでいる。椅子取りゲームに負けた一人が、必ず傍で笑いながら立っている。ブライダルMCの私としても、人形のように座っているだけではなく、ひらひらと蝶が花を渡り歩くように動く二人は美しいと感じる。移動する際の立ち姿が見られるのも嬉しい。アテンド(介添え)さんは動く新婦のフォローに忙しくなるが、時にそんな黒子までも労う新婦がいる。彼女たちの好感度は抜群である。このように二人はおもてなしに重きを置いているが、それによって、自分たちも十分に楽しみ幸せを感じているようだ。

 

こうして、祝ってもらう場が、いつから感謝を伝える場になったのか。自分たちの満足のために資金を使うよりも、ゲストに還元したいと言う二人がいた。お料理のグレードを上げ、キャンドルセレモニーをカットするという。ファーストバイトよりも友人へのサンクスバイトをしたいという。そんな控えめな彼らに、時にこんな助言をする。

「日常とは違う空間を楽しみに来てくれるゲストへ、魅せる演出もおもてなしの一つ。幸せそうな二人のかけ合いを見せる、幻想的な空間を造る、これらも加えて、バランスよく実現させていきましょう」と。(だって、何もしなければ、それは本当に飲み屋の同窓会と変わらなくなってしまうわけで…)

とにかく、私が身を置くブライダルの世界では、最近の若者はシンプルに偉いのだ。見習うべき点、極めて多し。

例えば、会社では、「最近の若者は昔より忍耐力がなくなった」と古参がぼやいているだろうが、そんな彼らは、こちらの世界では尊敬に値する配慮の行き届いた人物だったりする。

 

先日、披露宴の間、ひたすら自分の髪型を気にする新婦がいた。久しぶりに見た気がした。そうそう、今でこそ珍しいけれど、その昔はそんな人もいましたよ。懐かしくて、可愛いヤツめ、などと思いながら見守ってしまった。かく言う私も、和装から洋装にチェンジした際のケバいままの自分の顔に慄いて、けっこうな比率で、メイクの失敗が結婚式の思い出を占める結果となっている。あの頃の浅はかな自分に言ってやりたい。ケバい顔で、なぜおもてなしに徹しなかったか!と。赤すぎる、今まで見たこともない唇でも、口をあけて思いっきり喋って、思いっきり笑えば良かった。最近のデキた二人を見ていると、若かりし頃の自分が恥ずかしくなるのだ…私はそんな目線で二人を見守るブライダルMCである。